2019年10月20日

怖くなりそうな小説3603

 一番嫌なのは、毎日が充実している人が近くにいる事だ。あまりにものすごい有名人が幸せに生きていたとしても、自分にはかかわりのない世界だからとあまり気にはならない。けれど、自分でも届きそうなところにいる人が、自分よりもしっかりと生きていたら、どうしても比較してしまう。何を比較するかは何でもいい。ほんのちょっとしたことでも、とにかく比較してしまって、そして自分よりも状態がいいと、とにかく苦しくなってしまうのだ。自分は今のままではだめだ、という焦り、自分はあんなふうにはなれないという絶望。そんなのでいっぱいになる。ナンバーワンじゃなくてオンリーワンになればいいとか言われるけれど、でもそのオンリーワンにさえなれていないような、それでは何のために生きているのだろうと、そんな不安で押しつぶされそうになる。と、急に世界が狭くなったような気がした。驚いて立ち止まり、周りを見回す。さっきまでと変わらない。きっと気のせいだろう。私は改めて歩き始める。何かわからないそれは、近づくにつれて少しずつ大きくなっていく。けれど、それでもそれが何なのか、よく分からない。建物のような何かではなく、どちらかというと丸く柔らかそうに見える形状のように感じられたけれど、それも定かではない。さらに近づいていくと、まだかなりその何かから離れているのに、なんだか嫌な空気を感じるようになった。近づいてはいけない、と私の中の何かが訴えていた。
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2019年10月19日

怖くなりそうな小説3602

 歩いていると、なぜか私は少しずつ落ち着いてきた。何をすればいいのか分からない状況が変わって、目的だけはできたからかもしれない。とりあえず何かに向けての行動をしていれば、不安をごまかすことはできる。そして歩きながら、私は考えた。私は人と関わるのが嫌だったはずなのに、なぜ人を探しているのか。そもそもなぜそんなに嫌だったのか。いや、嫌というよりは怖がっていたのだ。では何が怖かったのか。おそらくそれは、他人と比較されてしまうということだ。いや、周りはそれほど私のことをそんなに意識していないだろう。だから、比較されてしまうというよりは、私自身が比較してしまうという事だ。自分自身ですることだから、それならしなければいいのにと思うけれど、でもどうしてもしてしまう。そして、周りと自分を比較して、自分のダメな部分ばかりが見えてしまって、それで苦しくなる。苦しいだけならまだいいかもしれない。私の場合、その苦しみが自己否定につながってしまい、自分を壊したくなってしまう。だから私が人と関わるのを避けるのは、自分を守るためでもあった。今だって、こんなに人を探しているけれど、もしその人と会ってしまったら、またそんな自己否定が起こってしまうかもしれない。そうならないためにはどうすればいいか。この世界で人と会ってしまう前に、そのことを考えておかないといけないような気がした。けれど。どうしても私には、他人は他人で自分は自分なのだという考え方ができないのだ。
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2019年10月18日

怖くなりそうな小説3601

 何の答えも出ないまま時間だけが過ぎていって、気が付くと私は、完全に身動きが取れなくなっていた。それほどに世界が小さくなってしまっていたのだ。もう覚悟を決めてこの世界を壊すしかない。自分から割ろうとしなくても、私が少し動いただけでひびは勝手に大きくなっていき、ある時パリンと音を立てて割れて、そうして私は外の世界に出てしまったのだった。それまでがあまりに息苦しかったせいだろうか、あんなに外に出るのを恐れていたのに、出てきてよかったとさえ思った。ただ、ここがどこなのか分かっているわけではない。全く知らない場所だ。そしてそこに私は一人でいる。それに気づいた途端私は、周りを見回し、誰かいないかと探した。あんなに人と関わるのが嫌だったのに、自分が人を捜し求めるなんて、と少し不思議な気分だった。けれど、そんなふうに客観的に自分を見る余裕があったのは最初のうちだけだった。見回せば見回すほど、そこには誰もいなくて、そして何もない。遠くの方に何かがあるのが見えるだけで、それが何なのかも分からない。上を見てみたら、そこには夜空が広がっているようだったのだけれど、星もなく月も見えず、本当に空なのかどうかわからなかった。どうしようもなく私は、何なのか分からない遠くに見えるの物の方に向かって歩き始めた。歩くとパリンパリンと音がする。きっとさっきまでいた世界の破片を踏んでいるのだろう。しばらくするとその音も聞こえなくなり、私は静かに歩いて行った。
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