2017年09月26日

怖くなりそうな小説2849

 そして。幻が以前よりも少しずつ僕をさらに責めるようになってきて、僕の中のその黒いものがどんどん膨れ上がって。ある日、その黒いものは僕の口から出てきたのだ。それは意外とすっきりして、とても気持ちが楽になったけれど、その黒いものは、僕の足に括りついていた。つまり歩こうとすると、それを引きずらないといけないのだけれど、それが重くて大変なのだった。体の中にあったときはこんなに重くなかったのに、外に出てしまうととても重い。まさにそれは足枷だった。もちろん全く動けないわけではないし、その黒いものは大きいのに、現実に存在するものではないらしく、物にはぶつからないから狭い所を通るときに困ることはないし、人から見られたり人から邪魔にされたりすることもない。その存在は僕自身が分かっているだけで、他の人には見ることも触ることもできないのだ。だから周りから見たら、僕は足を引きずりながら歩く、足を怪我した人のように見えているだろう。実際には怪我なんてしていないのだけれど。といって、他人の目を気にしている余裕もないほど、それは重いのだ。いつもなら数分で歩けるところが、どうしても2倍くらいの時間をかけてしまう。そして何より気が重いのは、それは日が経つにつれて少しずつその重さを増していくということだ。このままだと、歩くことさえできなくなるかもしれない。僕はその黒い塊を、なんとか足から離そうとしたけれど、それは僕自身にも触ることができないから離しようがないのだった。
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2017年09月25日

怖くなりそうな小説2848

 でも僕の周りの幻はそんな過去をいくつもいくつも思い出させる。ほとんど忘れていたようなことさえ思い出してしまう。思い出したくなる幸せだった過去はなかなか思い出せないのに、嫌な思い出やつらい思い出はたくさん思い出してしまう。そしてそんな中たまに、こんな幸せなことだってあったのだ、という思い出を思い出しても、それらは嫌な思い出にすぐにかき消されてしまう。終わり良ければ総て良し、というけれど、それは逆に言えば、終わり方が悪ければすべて悪いことになってしまうということだ。結局僕自身の過去は、途中で何らかの幸せなことはあったとしても、総合してみたら終わり方が悪かった、ということなのかもしれない。幻は、そうした悪いところばかり思い出させてくる。なぜなのか、何があったのかははっきりと思い出せないのに。ただ何もわからないまま。そうした苦しみは黒い塊になって僕の中にたまっていく。何もわからないまま、それは膨れ上がっていく。もはや忘れるということで処理できるものではなくなってしまう。例えば、どんな過去を持っていても、これから新しい現実を作っていけばいいと思う人だっているかもしれない。けれど、そんな新しい現実を受け入れる余地が僕の中にはもうないのだ。僕の中では、もうその黒い塊が膨れ上がっていて、それは仮にどんなに新しい現実で払しょくしたとしても、きっと取り切れない部分がこびりついていて、それはほうっておくとまた少しずつ膨らんでいくのだ。
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2017年09月24日

怖くなりそうな小説2847

 それから、幻は次第に、夢の中にも表れるようになっていった。現実で見る幻はこちらを見ていたり追いかけてきたりするけれど、何も話はしない。けれど、夢の中に現れる幻は話をする。会話だってできる。だから僕は話してなんとか幻に消えてもらおうとするのだけれど、消えてくれない。そして、夢から覚めると何故か、何を話したのか全く思い出せないのだ。現実での幻を避けるためにもなんとか思い出そうとするのだけれど、何も思い出せない。それどころか、なぜ自分が謝りたいと思っていたのか、なぜ恨まれていると思っていたのか、そうしたことさえも思い出せないようになっていった。知りたいという気持ちとは裏腹に、脳の根本的なところが、全てを忘れることで現実から逃げようとしているかのようだった。もちろんそれで逃げることができるならそれでもいいし、むしろその方がいい。過去のことなんて覚えていても良いことはない。もちろん幸せだった過去を思い出して幸せに浸ることくらいならできるかもしれないけれど、でも所詮そんなのは過去の幸せであって今の幸せではない。それよりも、過去の苦しみの方が問題だ。過去の苦しみは、ふと表に現れるとそれだけで苦しくなる。それはいつまでも続く。過去の幸せは、ふと思い出してもすぐ消えるのに、苦しみは一度思い出したらなかなか消えない。そして自分を少しずつ壊していく。だから過去なんて、忘れることができるなら忘れてしまった方がいいのだ。
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