2018年02月21日

怖くなりそうな小説2997

 殴られた黒い人は、何か叫ぶようなしぐさをして、そのまましばらく殴った黒い人を見ていたけれど、肩をいからせたまま、部屋を出て行った。残った黒い人はしばらくその姿を見送った後、ため息をつくようなしぐさをして、椅子に座った。そのまましばらく動かず、考え事をしているようだったけれど、ハッとしたように顔を上げ、こちらに近づいてきた。そして僕は目覚めた。なんとなく拳が痛くて、見てみると、少し赤くなっていた。あの黒い人を殴った方の手だ。なんとなく、殴った感触がよみがえってきて、少し嫌な気持ちになった。けれど、そんな気持ちも次第に消え、僕はいつものように会社に行き、いつものような一日を過ごした。夢で見た黒い人の喧嘩のことは、すぐに頭から消えて行った。思い出したのは、寝る直前だった。なんとなく、殴られた黒い人が仕返しにやってくるのではないか、と不安になったけれど、でも落ち着いて考えたらそれはどうせ夢の中の話なのだから、気にする必要なんてないはずだ。そう思って心を落ち着けて目を閉じると、すんなりと眠ることができた。そして夢の中で僕の中から出てきた黒い人は、なんだか少しそわそわとしているようだった。いつものようにくつろぐ様子はなく、部屋の中を行ったり来たりしている。しばらくして、誰かが来た。入って来たのは、やはり昨日の殴られた黒い人だった。その人に向かって僕の中の黒い人は頭を下げていた。よく見ると、相手の黒い人は、包丁らしきものを持っていた。
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2018年02月20日

怖くなりそうな小説2996

 そしてある日の夜。夢の中で、事件が起こった。初めて夢の中に、黒い人以外の存在が現れたのだ。といっても、新しくあらわれたのもまた黒い人だった。ただ、体格が少し違う。僕の中から出てきた黒い人は僕と同じような体格だったけれど、新しくあらわれた黒い人は、僕よりも少し身長が高く、痩せていた。二人は、最初親しくしているように見えた。時々僕の皮の方を見ながら、何か話している。離れたところで小さな声でぼそぼそと話しているようだから、話の内容は聞こえない。僕の中の黒い人がコーヒーを入れて、二人でそれを飲みながら話していた。それを見ている僕は、なんだか、少し嫌な気持ちになった。僕は、僕でいるときは、こんなふうに人を家に招いたことなんてないし、何よりそれ以前に、招くような親しい人もいないのだ。それなのに、黒い人はこうして人を招いている。うらやましいという嫉妬なのか、それとも別の感情なのか、とにかく少し嫌な気持ちになっていた。そして。きっとその感情とは関係ないと思うのだけれど。二人の間に少しずつ、おかしな空気が流れ始めているようだった。相変わらず声は聞こえないけれど、なんとなく言い合っているように見える。そしてそれは次第に高まっていき、相手の人の方が机をたたいて立ち上がった。何か怒鳴っているように見えるけれど、声が聞こえない。そういえば、黒い人が一人でいるときも何も聞こえてこなかったから、声の大きさは関係ないのかもしれない。とにかく、そうするとこちらの黒い人も立ち上がり、相手の人を殴ったのだった。
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2018年02月19日

怖くなりそうな小説2995

 それ以来、その夢を頻繁に見るようになった。いつも同じように僕の中から黒い人が出てきて、そして戻ってくるのだけれど、その間の黒い人の行動は似たようなことばかりとはいえ、いつも違った。同じことをしているときでも、仕草やちょっとした行動が異なっている。それは夜眠っている間だけでなく、例えば昼寝しているときでも起こった。ただ、それらはすべて家にいるときだけだった。電車の中でうたた寝をしたり、会社で昼休みに少し眠るときなんかには起こらない。そのことも含めて、なぜいつもそんな夢ばかり見るのか気になった。ただ、気になっただけで、原因を調べようという気にはならなかったし、それに何より、その夢がそれほど気持ちの悪いものではなく、むしろ、なんだか気持ちがいいとさえ思えるようになっていた。黒い人が出て行ったり入ってきたりするときの吐き気のする感覚だけは少し嫌だったけれど、でもそれも慣れるとそれほど気分は悪くはなかった。それに、黒い人が僕から出てきてくつろぐのと同じように、僕もまた、黒い人が出て行っている間は、なんだか解放されるというか、僕自身もなんだかくつろいだ気持ちになれるのだ。そうして、僕は考える。どちらが一体僕なのだろう。あの黒い人なのだろうか。それとも彼がかぶっている僕の姿なのだろうか。それとも、あの黒い人が僕の姿をかぶってこそ、僕という存在が生まれるのだろうか。だとしたら、僕の皮を別の人がかぶったら、僕はどうなるのだろう。
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