2017年07月22日

怖くなりそうな小説2783

 実験台として使われていた私は、けれど悪い気はしていなかった。むしろ誇らしい気持ちになった。素晴らしい彼女、そしてその素晴らしい彼女を支えている自分。支えているのかどうかは分からないけれど、少なくとも実験台として彼女の役に立ったことは確かだろう。ただ、結局ここはコンピュータの中の世界だから、そうしたことは比較的簡単に行える。もちろん普通に考えたら簡単ではないけれど、彼女にとっては難しいことではない。けれど、外のアナログの世界に対して同じことを行うのは困難だった。まず意識を外に流し出すとして、そのためにその間、外との通路が常につながっていなければならない。突然その通路が途切れ、意識が分断されてしまったら、どうなるか分からないからだ。そうならないための方法を考えなければならない。あるいは仮に意識を完全に外に出してしまい、通路が閉じてしまうという方法もあるけれど、その場合はそれはそれで、外に出てしまった意識がそのまま保ち続けられるような状況に持って行くことが必要で、それはそれでまた難しいものだった。ただ、彼女はアナログもまたもっとも小さな部分はデジタルなのだと考えている。脳のもっとも小さな判断は二値で、その二値の判断が複雑に絡み合っているだけだと考えている。もっともそれは、私は知らなかったのだけれど、脳の研究では普通に考えられていることらしい。彼女は、その二値の判断部分にアクセスすることができれば、外と対話することができるはずだと考えているのだ。
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2017年07月21日

怖くなりそうな小説2782

 そんな中、研究は進み、最初の実験が行われる日が来た。最初は、ある特定の思考を外に流し出すという実験だった。外の人間の脳がこの世界につながれているときに、こちらの思考をこちらから流す。つまり、これまでは外の人間がある特定の思考を選択して受け取っていたところに無理やり介入して、こちらの決めた思考を受け取らせる。どのような思考を流すかは少し話し合ったけれど、まだこちらのしていることに気づかれないように、宣戦布告的なものはやめることにした。ただ、外の人間が何らかのリアクションを起こすような思考を流さないとうまく行っているのかどうかの判断ができない。だから、この世界のある場所で不思議な出来事が起こっている、それは特定の日時に起こる、という噂を流し出すことにした。そうすれば、うまく思考を外に流し出せていれば、必ずその日時に、その特定の場所を確認するための通路が開かれるはずだからだ。そしてその実験はうまく行った。流し出した特定の日時の情報と全く同じ時間帯に、その場所に通路が開いたのだ。これで、第一段階の実験は終わった。私は本当の彼女とも私の中にいる彼女とも喜び合った。そして、その時の会話で、私の中にいる彼女と、本当の彼女は、同じ存在なのだということを知った。彼女は自分の思考を、直接私の中に流し込んでいたのだ。そしてそれは実験の次の段階と同じものだった。つまり、私たちは、外にいる人間と対話しようとしているのだ。
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2017年07月20日

怖くなりそうな小説2781

 とはいえ、まだ理解したというだけだった。理解することと、その先を考える事とはまた違う。彼女は次々にアイデアを出し、それを聞くたびになるほどと思うけれど、私にはそうしたことはまだできない。理解度の問題ではなく、才能の問題なのかもしれないけれど。私は次第に、彼女のようになりたいと思うようになっていた。理解すればするほど、彼女のことが素晴らしく思えてきた。一度そのことを言うと、あなたはもう私よ、と彼女は言った。その意味はその時は分からなかったけれど、次第に分かるようになっていった。私は彼女になりつつあったのだ。才能こそ彼女には及ばないけれど、最初は考え方が、そして少しずつ口調やしぐさなどが彼女に似ていった。私の中で何かが起こっているような気もしたけれど、実際のところどうなのかはわからない。もしかしたら、彼女が何かしたのかもしれない。それとも単に私自身が彼女にあこがれすぎて無意識に真似るようになっていったのかもしれない。ただ、それもしばらくして判明した。やはり私の中で何かが起こっているのだ。というのも、時々彼女の声が私の中から聞こえるようになったからだ。私の中の彼女は、時々、私には思いつかなかったようなことを言う。最初は一方的に話しかけてくるだけだったけれど、次第に私たちは対話できるようになっていった。その分本当の彼女と話す機会が減ったけれど、彼女は気にしていないようだった。というよりも、彼女は私の変化を知っているようだった。
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