2017年04月23日

怖くなりそうな小説2693

 そして、ある日、女性が動かなくなった。生きてはいるのだけれど、目を覚まさないのだ。眠り続けている。ただ、寝たきりの病人のような状態とは違って、脳の動きは活発で、それに合わせて体が動くこともある。不思議な状態だった。結局、私たちには何もできないまま、彼女は自力で戻ってくるのだ。私たちはそう思った。そして、そうなのだと信じていた。他の研究員はそれぞれが複雑な気持ちだったようだけれど、私自身はそうでもなかった。むしろ結局私達には何もできなかったのに彼女は自力で戻ってくることができたのだというその彼女の才能が誇らしくさえ思えた。けれど。それから数日が経ってようやく目覚めたその女性は、彼女ではなかった。ただ、元のその女性でもないようだった。女性は話さず、目が覚めた時にそばにいた研究員の一人を殴った。助けに来たほかの研究員も殴られ、女性は部屋に閉じ込められた。部屋につながっているマイクでコミュニケーションをとろうとしたけれど、言葉が通じていないのか、何も返事はなく、ただうなり声が聞こえるだけだった。まるで人間ではない、何かの凶暴な動物が女性の中に入ってきたような、そんな印象を受けた。私たちは、彼女を呼び戻すどころではなくなった。女性に何が起こったのか調べなければならないというのもあるけれど、何より、彼女が戻ってくる手掛かりを失ってしまい、どうしようもなくなっていた。私はそれでも、何のために研究を続けているのかわからなくなりながらも、研究を続けた。
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2017年04月22日

怖くなりそうな小説2692

 私たちは早速その解読に集中した。もしかしたら意味なんてないのかもしれないけれど、意味はあるのだと信じた。しかし、いろいろな方法を試し、高額でその専門家を呼んだりもしたけれど、そこには何も見つけられなかった。ただ、普通の脳波とは違う波がただ書かれているだけだった。そして。そんなある日、ふと思いついた。波の揺れ自体には意味はないのではないか。このような脳波によって、脳自体に何か影響を与えようとしているのではないか。というより、彼女が仕掛けた何らかの影響を受けた脳がこのような脳波を出しているのではないか。もしそうだとしたら、解読なんてする必要はない。ただ、待つだけだ。彼女が自ら戻ってくるのを。そう、そもそも彼女がこんな簡単に失敗するなんてありえないのだ。いや、仮に失敗なのだとしても、彼女がその予測をせずその対策を立てていないなんてありえない。きっと彼女は準備していたはずだ、こういう状態になった場合に備えて、その対策を。そしてその結果が今ようやく表れつつあるということなのではないか。実際、そうしている間も、女性の頭で声が聞こえることは増えつつあるようだった。女性は憔悴していて、精神的にもきつくなってきているようだった。もう少し。もう少しで彼女は戻ってくる。そう願って、私は待つことにした。もちろんその間も脳波について調べ続けてはいたけれど、もうそこから何か見つけられるとは思えなかった。早く彼女に会いたい。そう思いながら私は待った。
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2017年04月21日

怖くなりそうな小説2691

 頭の中で、声がするという。女性のその言葉を聞いた途端に、それは彼女の声だ、と思ったけれど、それを言うのは我慢して、さらに話を聞く。最初は気のせいだと思ったらしい。例えば耳鳴りだとかそういうものだと思ったそうだ。けれど、少しずつその声が聞こえることが増えてきたらしい。ただ、何を言っているのかはわからない。難しいことを言っている、という意味ではなくて、うめき声だとか知らない国の言葉だとか、そんなふうに聞こえるらしい。どのタイミングで聞こえるか、というのもはっきりしないようだった。ある朝突然やかましいくらいに聞こえたかと思えばしばらく聞こえなくなったり。突然ほんの一言か二言だけ聞こえることもあったり。結局、不定期に声のようなものが聞こえることがある、ということが分かっただけで、それ以上のことは何もわからなかった。でも少なくとも、頭に異常があるということは、彼女がまだ頭の中にいる可能性につながる。私たちは、その女性の頭に装置をつけて常に脳の状態を調べつつ、声が聞こえた時にはボタンを押して私たちを呼んでもらうことにした。それからしばらく声は聞こえなかったらしく、数日が立ち、私たちは落胆し始めていたのだけれど、その日はとうとう来た。呼び出され、部屋に行くと、女性が頭を抑えて苦しそうにしていた。装置のつながったモニタを見ると、脳波がおかしな状態に揺れていた。彼女だ、と思った。それが何を意味しているのかは分からなかったけれど、でもこれはきっと、彼女からのメッセージなのだ。
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