2017年03月25日

怖くなりそうな小説2664

 ただ、その大きなネットの世界も、有益で興味を引くものはほんの一部だった。情報量は膨大だけれど、そのほとんどは、現実の私がしているのと同じような事ばかりだった。それが個人レベルか集団レベルかの違いはあったとしても、やっていることは似たようなものだった。それよりももっと専門的な内容を展開しているところが興味を引いた。そしてそれはどんなに難しいことでも、今の私にはほとんど理解できた。そして理解できればできるほどますます楽しくなっていった。もしかしたら、ネットの中の私が現実の私と入れ替わって、それでもネットの中に自分を見出そうとしたのは、あながち間違っていなかったのかもしれない。ただ、その見出し方を間違えていただけで。ネットの中は確かに可能性と素晴らしさで満ち溢れていた。ちゃんと取捨選択さえすれば容易にほしい情報が入ってくるのだから。何がほしいのか分からない時でさえ、探索しているうちにほしいものが見つかる。そして。そうしてたどり着いたのが、その研究所のデータだった。表向き公開しているものではなかったけれど、今の私にはすんなりと入りこめた。そこは、脳と記憶について調べている研究所だった。特に、記憶をデジタル化して脳から取り出し、別の脳に入れる、という研究が興味を引いた。実際私の記憶はデジタル化されている。どういう過程でこうなったのかは分からないけれど、もしこの研究が進めば私は肉体をもう一度手に入れることができるかもしれないのだ。
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2017年03月24日

怖くなりそうな小説2663

 けれど、現実は何も変わらなかった。というよりも、変える事なんてできなかった。だって私には何もできないのだ。物理的なことが何もできないのは当然として、何も伝えることができない。存在自体伝えることができないのだ。それでも何か方法はないかと考えたけれど、ただ時間が過ぎるだけだった。現実の私は、一日中部屋でネットをしていて、部屋を出るのはトイレに行くときとお風呂に入るときだけだった。食事はドアの前に置かれているものを部屋に引き込んで食べた。私にとって現実とはネットのことだった。ネットの中に私がいる。肉体は付属品でしかなかった。そして。それなら私はネットの中に入ろうと思った。そんなことできるわけがないと思ったけれど、でもできたのだ。ネットの回線に入り込み、そしてプログラムに入り込んだ。考えてみれば人間自身の構造の方がプログラムなんかよりはるかに複雑なのだ。思考の中では何も理解なんてできなかったけれど、肉体という余計なものを省いた状態だったからこそなのだろう、私はすぐにそのプログラムに適合し、私のパソコンだけではなく、回線を通して世界中のパソコンにアクセスすることができるようになった。それはとても広くて、様々な情報があって。私はすぐに、その虜になった。現実の私の行動なんてもはやどうでもよくなった。このとても大きなネットの世界の、ほんの一部の小さなところで偉そうなことを書き込んだりしている自分が滑稽で、相手にする気にもならなくなったのだ。
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2017年03月23日

怖くなりそうな小説2662

 そのまま私は目的もなくさまよい続けた。怖いものなんて何もなかった。家から近所を少し移動するだけでも、これまでずっと部屋の中にいた自分にとっては、世界はものすごく広いのだと思えるほどだった。これだけ広い世界なのだから、きっと立派な人ばかりではない。私みたいにダメな人間も、私以上にだめな人間もきっといるだろう。もちろん私よりも立派な人間だっているのだろうけれど、その立派さも様々なはずだ。私がどうあがいてもなれないような立派な人だっているのだろうけれど、私が少し、ほんの少し頑張ればなれる程度の立派さの人だっているに違いない。私はそうして少しずつ少しずつ成長していけばよかったのだ。無理に最初からものすごく立派な人間でいようとしたのが間違いだったのだ。人はそんなにすぐに大きくは変われない。けれど少しずつの変化ならすることだってできるだろう。そうしようとすればよかったのだ。今更気づいても遅いけれど。いや、本当に遅いのだろうか。まだ何かできる事があるのではないだろうか。解放感は、私を前向きにしてくれた。根拠なんて何もないのに、自分にもきっと何かができる、そんなふうに思えた。だから私は、部屋に戻ることにした。部屋に戻って、なんとか自分を変えてみよう。私を部屋から出して、世界の広さを知らせて。きっと私は変わることができる。外に出て前向きに生きることができる。きっと私ならできる。そう小さくつぶやきながら、私は部屋に戻った。
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