2018年04月24日

怖くなりそうな小説3059

 そうしたことを思い出すと同時に、この場所のことも思い出した。ここは、私が生まれた場所だった。人間としてではなく、記憶として。つまり、ある人工知能が作られ、最初に埋められた記憶がこの場所だったのだ。その人工知能は、この場所から記憶を作り始めた。この場所で生まれ、そして育てられ、気が付くといつの間にか普通の人間の生活をしていた。その生活の中で、いろんな記憶を手に入れ、人間らしい感情を持つようになっていった。けれど、研究が途中で終わったのか、それとも使い捨てにされたのか、その人工知能は何度か記憶を入れたり消したりされた後、使われなくなってしまった。ただ、その人工知能のプログラム自体は使われなくなってしまったけれど、データとしての記憶はコンピュータに残ってしまっていた。それが私なのだ。本来ならただその記憶を持ち続けるだけだったのだろうけれど、おそらくそのコンピュータが再びつかわれ始めたのだろう、それもおそらく、別の人工知能の研究のために。その過程で私は再び動き始め、そしておそらく、新しく作られた仮想空間の中の一つの人工知能の記憶としてその人工知能に寄生してしまったのだ。人工知能が、より複雑な人工知能を作る、そのために使われることもある。だから私は、それに合わせて記憶が再び再構築されようとしていた。生きている人間が自分を保つために色々な思考を組み立てていくのと同じように、人工知能もまた、自分はこうなのだと納得できるように記憶を構築していくのだ。
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2018年04月23日

怖くなりそうな小説3058

 どれだけ読んでも何があったのかは書かれておらず、ただ精神的な状況だけが書かれていた。最初の方こそ、がんばろうだとか、なんとかなるだとか、少しは前向きなことも書かれていたけれど、次第に、もう駄目だ、不安だ、やっていけない、と完全に否定的なことしか書かれなくなっていった。そして、もうやめよう、という一言だけが書かれた日記が最後で、それ以降の日記は現れなくなった。すべて読み終えて気が付くと私は泣いているようだった。そんなつもりはなかったのに、なぜか目から涙が出ているのだ。そして止まらない。なぜだろう、と思いながら、でも自分ではその理由を分かっているような気がした。だって、きっとこれはやはり私自身のことだからだ。そもそも性別が違って、私自身は女性だし、日記を書いているのは男性のようだったけれど、それでもこれは私のことなのだ。私と似たような体験をした人が書いた、というわけではなく、私自身に起こったことなのだ。そう、私はこの人の人生を経験している。私は男性だった。なぜ今女性になっているのか、そのことさえも私は思い出した。そもそも。私は男性でも女性でもない。ただ、一つの記憶だったのだ。人の体から生まれたものではなく、人の手によって作り出された存在。人工知能を作る過程で、生み出された記憶。それが人の体に移され、その人が人生を終えると、別の人間の体に移る。そんなふうにして、いろんな人間の体を移り歩いている存在なのだ。
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2018年04月22日

怖くなりそうな小説3057

 何だろう。ふわふわとして、自分がここにいることの実感さえ湧かなくなってきた。周りが暗いせいかもしれない。ただ、怖いということはなく、むしろ心地が良い。この世界と同化したような。とはいえ、ここは狭い部屋で、たいしたものは無く、あるのは日記の書かれた紙だけ。次第に私はこれが自分の日記なのではないかと思うようになった。この日記と同化してしまっているのだろうか。ただあまりにも読み続けていたから、自分のことのように勘違いし始めているのだろうか。でも、これが自分のことなのだと思いながら記憶を探ると、確かに同じようなことがあった気がする。そもそも私が研究を始めたのも、同じように手紙が来たからだった。それまでは、生き甲斐もない、さえない生活をしていたのだ。スマートフォンのゲームアプリだって同じように何かをしていたような気がする。何のゲームだったかは思い出せないけれど。彼はどうなったのだろう、と私は再び日記を読み始めた。彼はどうなるのか、という疑問は、次第に私はどうなったのだろう、という疑問に重なっていく。彼は、三か月たって、予定通り仕事を辞めて、研究所に通うようになった。相変わらず研究の内容は守秘義務があるのだろう、書かれていないけれど、最初の頃は、やりがいもあるようで幸せそうに書かれていた。けれど。次第に日記に書かれている内容が減っていき、文章自体、暗い感じのものになっていった。仕事で何かあったのだろうか。私は不安になった。
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